2019年01月10日
研究成果 

忘れた記憶を復活させる薬を発見

北海道大学大学院薬学研究院の野村洋講師、京都大学大学院医学研究科の高橋英彦准教授、東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二教授らの研究グループは、脳内のヒスタミン神経系を刺激する薬物をマウスあるいはヒトに投与すると、忘れてしまった記憶をスムーズに思い出せるようになることを発見しました。本研究成果は2019年1月8日付でBiological Psychiatry誌(オンライン版)に掲載されました。

発表概要
一見忘れたように思える記憶であっても、その痕跡は脳内に残っています。しかし忘れた記憶を自由に回復させる方法は存在しません。本研究グループは、脳内のヒスタミン神経系を活性化する薬が記憶に与える影響をマウスとヒトで調べました。その結果、記憶テスト前にヒスタミン神経系を活性化すると、忘れてしまった記憶でも思い出せるようになることを見出しました。この薬の働きには、嗅周皮質と呼ばれる脳領域の活動上昇が関わっていました。また、特にもともと記憶成績が悪い参加者ほど薬の効果が大きいことがわかりました。

本研究成果は、脳内ヒスタミンや記憶のメカニズムの解明に有益であると共に、アルツハイマー病などの認知機能障害の治療薬開発の一助となることが期待されます。

ベタヒスチンの服用にあたっては医師、薬剤師の指示に従い、自己判断で薬の服用を止めたり、決められた量よりも多く服用したりしないでください。ベタヒスチンの副作用の検討は少人数の試験では検証できないこと、そして処方薬の安易な服用は認められないことから、ベタヒスチンを記憶改善の目的で用いることのないようにご注意ください。

発表論文
雑誌:Biological Psychiatry
題目:Central histamine boosts perirhinal cortex activity and restores forgotten object memories
著者: 野村洋、水田弘人、乘本裕明、増田文貴、三浦友樹、久保絢女、小島寛人、芦塚あおい、松河理子、Zohal Baraki、人羅(今村)菜津子、中山大輔、石川智愛、岡田真美、折田健、齋藤瞭毅、山内直紀、佐野大和、楠原洋之、南雅文、高橋英彦、池谷裕二
論文へのリンクはこちら https://doi.org/10.1016/j.biopsych.2018.11.009
Hiroshi Nomura*, Hiroto Mizuta, Hiroaki Norimoto, Fumitaka Masuda, Yuki Miura, Ayame Kubo, Hiroto Kojima, Aoi Ashizuka, Noriko Matsukawa, Zohal Baraki, Natsuko Hitora-Imamura, Daisuke Nakayama, Tomoe Ishikawa, Mami Okada, Ken Orita, Ryoki Saito, Naoki Yamauchi, Yamato Sano, Hiroyuki Kusuhara, Masabumi Minami, Hidehiko Takahashi*, Yuji Ikegaya. Central histamine boosts perirhinal cortex activity and restores forgotten object memories. Biological Psychiatry doi: https://doi.org/10.1016/j.biopsych.2018.11.009. Published on January 08, 2019